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阿津川辰海『紅蓮館の殺人』-館もの×山火事のクローズドサークル!盛り沢山なミステリー 

 

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紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

 

 

『紅蓮館の殺人』

山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。これは事故か、殺人か。葛城は真相を推理しようとするが、住人や他の避難者は脱出を優先するべきだと語り――。タイムリミットは35時間。生存と真実、選ぶべきはどっちだ。

裏表紙より引用


阿津川辰海 あつかわたつみ

講談社

2019年9月18日発行

全439ページ

 

館ものクローズドサークル

スマホやネットなど便利すぎる現代社会ではクローズドサークルの状況をつくるのは難しく、最近のクローズドサークルミステリーはどんどん大がかりなものとなってきているように感じる。


『紅蓮館の殺人』の主人公コンビは男子高校生。過去にも警察に協力して事件解決に導いたことのある探偵の葛城と、名探偵に憧れていたが自身には才能がないと諦めた助手役の田所。

彼らは学校の勉強合宿中、隠棲した文豪の館に向かうため無断で合宿を抜け出した。

憧れの小説家に会えるかもしれないと期待に胸を膨らませていた二人だが、落雷から発生した山火事に遭遇。火の勢いが強く下山できなくなってしまった。

なんとか目的地だった文豪の館へと避難すると、同じく山火事から避難してきた人々がやってくる。彼らは落雷の影響で外部と連絡もとれずただ救助を待つしかなかった。

しかし、この館は趣味でからくり仕掛けが施されていたのだ。山の麓に隠し通路の出口らしきものを見つけていた葛城と田所の情報から、館内に山の麓へ通ずる入り口が存在するのではないかと考え、ただ救助を待つだけではなく脱出のために館の隠し通路を探すことに。

文豪・財田雄山の家族と避難してきた人たち。偶然集まったはずの何の接点もなさそうなメンバーで殺人事件が起きてしまう。

 


山火事という大がかりなクローズドサークル&館のからくり仕掛け。
なんて“館もの”クローズドサークル好きの心をくすぐる設定!
殺人の恐怖と迫る山火事の炎、火事がタイムリミットを演出しているためストーリーがダラダラしなくてよかった。

また今回の事件は10年前の連続殺人事件との関連がありそうで──。

いろいろと盛り沢山なミステリー小説だ。
少々詰め込みすぎにも思えるが、それを読ませる勢いがある。面白くて一気読みできてしまう。

時間をつくって一気読みするのがオススメな作品!


ちょっと気になるところ


設定てんこ盛りのスピード感と熱量が高いミステリー。読んでいる時はまったく気にならなかったけれども、冷静になるとまた違う感想もでてくる。

殺人トリックもかなり大がかりでちょっとグロく、あまりにも残酷な殺し方でミステリーとして楽しむことに良心が痛む。

その殺人トリックについても犯行不可能なのではないかと思う点がある。犯人はどうやって……?
これは私が理解出来なかっただけなのか……?

 


「探偵とは」


高校生探偵の葛城はお坊っちゃま。上流階級を生きてきた彼は嘘を見抜く嗅覚が格段にすぐれている。
厄介なのは嘘をついてると分かると拒絶反応からそれを暴かずにはいられない体質であること。
そんな葛城は「探偵とは生き方だ」という。

探偵という職業ではなく生き方だ。どんな仕事をしていても「探偵」はやめられない。


犯人についてもやけに「性格」を推理の論拠にしている節がありリアリティーに欠けるように思う。


「探偵は持って生まれた資質であり、探偵だけではなく詐欺師も殺人鬼も探偵もその【生き方】はやめられない」

これが葛城個人の考えなのか世界観の“設定”として実際にあるテイなのかが判断に迷うところであり、入り込みにくいところでもある。

 

山火事から避難してきたなかに元探偵の飛鳥井光流という女性がいたのだけど、彼女と葛城は探偵観の相違で度々ぶつかる。このやりとりが正直ちょっとくどい。
探偵じゃない読者側からしたら「どちらが正しいとかを議論してる場合か!」と声を大にして言いたかった。殺人事件だけならいざ知らず、山火事で火が目前まで迫る状況では一分一秒を無駄にしないでと。

 

ミステリーや探偵へのアンチテーゼなのか。
ラストの「探偵とは」の締めくくりについては、現役探偵の葛城と元探偵の飛鳥井どちらの言い分にも納得できるところがあった。

主人公の葛城は元探偵の飛鳥井と出会い意見がぶつかったことで、今まで信じてきた探偵としてのアイデンティティーが揺らぎはじめてしまう。

今後、葛城が探偵としてどんな成長を遂げるのかが楽しみである。

 

 


まとめ


館もの×山火事のクローズドサークルミステリー。たくさんのミステリーランキング入りが金ぴかの帯に映える!
主人公が若き高校生探偵&助手で青春あり、大がかりなクローズドサークル、館のからくり仕掛けと殺人トリックなどなど内容がてんこ盛りなミステリー。
ボリューミーながら読ませる勢いがあり大満足の一冊!
休日に一気読みするのがオススメの作品。

 


以上、阿津川辰海『紅蓮館の殺人』たまこの感想でした🐯