「2021年本屋大賞」第2位!
羽鳥コミュニティハウスの図書室では司書さんがぴったりの本をオススメしてくれる。オムニバス形式短編集。
『お探し物は図書室まで』
お探し物は、本ですか?仕事ですか?人生ですか?悩める人々が立ち寄った小さな図書室。不愛想だけど聞き上手な司書さんが思いもよらない選書と可愛い付録で人生を後押しします。『木曜日にはココアを』の著者が贈る、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。
「BOOK」データベース より引用
青山美智子
2020年11月9日発行
全300ページ
5篇の短編集
羽鳥区のコミュニティハウス内にある図書室。そこには一見すると無愛想で威圧感がある司書がいる。彼女は短い会話からいまその人の心に響く本を的確に紹介してくれる。
ハートフルなほっこり作品で読みやすく面白かった。
三章 夏美編は同性のためか感情移入して印象深い。一番好みな話は四章 浩弥編かな。
「何をお探し?」
その声はお思いかけず穏やかで凛としていて、体の奥まで響いてきた
一章 朋香21歳 婦人服販売員
スーパーの婦人服売り場で働く朋香。憧れの東京は想像していたキラキラした生活とは無縁だった。転職が頭にチラ付き、区の小学校に併設されている「羽鳥コミュニティ」のパソコン教室に通うことに──。
朋香は21歳の若さで人生に冷めている。彼女が司書の小町さゆりに相談したのは初心者向けのパソコンの本。オススメされた本はいくつかのパソコン教科書とパソコンに無関係な絵本だった。
悩んでいるときは視野も狭くなってしまう。朋香はオススメされた絵本を読んだことで、多角的な視点を意識できるようになった。
絵本が助けになったのもあるが、無愛想ながら否定しない司書の小町さゆりとの会話も朋香には響いていたと思う。ほっこり。
二章 諒35歳 家具メーカー経理部
サラリーマンの諒はアンティークショップを持つことを夢見ているが踏ん切りがつかないでいた。ある日、趣味の合う彼女に誘われて、羽鳥コミュニティハウスで行わる小さな講習会に参加した。
諒は講習会の帰りに施設内の図書室で起業の本について司書の小町さゆりに相談することに──。
結婚も考えている彼女がいて安定した仕事もある。資金も乏しくアンティークショップを持つことは遠い夢になるのもわかる。
宝くじ当たったら〜レベルな夢だけど叶えたい夢。
「いつかって言っている間は、夢は終わらないや。美しい夢のまま、ずっと続く。かなわなくても、それもひとつの行き方だと私は思う。無計画な夢を抱くのも、悪いことじゃない。日々を楽しくしてくれるからね」
司書さんのこの言葉が良かった。
三章 夏美40歳 元雑誌編集者
出版社の雑誌編集部でバリバリ働いていた夏美は、出産からの復帰初日に資料部への異動を告げられてしまった。定時帰宅は魅力だがやり甲斐を感じない仕事とうまくいかない育児に悩む。
羽鳥コミュニティハウスの図書室に娘と遊びに行き、司書の小町さゆりに娘のための絵本を選んで貰う──。
育児に振り回されて悩む日々。今まで頑張ってきたことは人との縁を繋いでいて無駄では無かった。5篇の中でも主人公の悩みの描写が具体的で細か買ったように思う。感情移入してちょっと泣いてしまった。
四章 浩弥30歳 ニート
デザイン学校に通ってイラストの仕事につきたかった浩弥。しかし、やりたかったイラストの仕事には就けず挫折していた。
羽鳥コミュニティハウスの図書室の司書は漫画にも精通していた。彼女が浩弥との雑談からオススメした本は意外なものだった──。
夢破れて挫折する。立ち直るのは難しく思えるが、このお話のように案外些細なきっかけからスルスル流れるように社会復帰できるのかもしれない。
小さな行動でも継続していれば何らかの形で夢は叶う、そう思わせてくれる話だった。
五章 正雄65歳 定年退職
正雄は洋菓子メーカー呉宮堂を定年退職した。暇を持て余していたところ妻に勧められ羽鳥コミュニティハウスの囲碁教室に通ってみることにした。
退職して社会との繋がりが無くなったと感じるのは人との繋がりが無くなったから。
仕事がなくなった分、妻や娘、そして自分とも向き合うようになれたのが良かった。
「人と人とが関わるならそれはすべて社会だと思うんです。接点を持つことによって起こる何かが、過去でも未来でも」
まとめ
司書の小町さんに本をオススメされたい!
5篇の短編はそれぞれの登場人物たちがチラチラ見え隠れしており、それがより人と人との繋がりを感じてほっこりする。
面白かったのでぜひシリーズ化してほしい作品。
以上、青山美智子『お探し物は図書室まで』たまこの感想でした🐯