ミス・マープル長編第2作目。
『書斎の死体』は1942年刊行なので2020年現在から78年前の作品である。
クリスティー時代から長い年月が経ち、よりたくさんの「ありふれた設定」ミステリーが世に溢れているが、ミステリーの女王が書いた老婦人探偵ミス・マープルの『書斎の死体』はたくさんの定番設定ミステリー小説たちに埋もれることのない満足のいく面白さだ。
『書斎の死体』
バントリー大佐の書斎で若い女性の死体が発見された。
それは家族、使用人にも見覚えのない女性だった。なぜバントリー大佐の書斎に見覚えのない女性の死体があるのか。
バントリー夫人は友人のミス・マープルに探偵役を連れて被害者が勤めていたデーンマスのホテルに捜査へと向かう。
村ではバントリー大佐を疑う噂が出回り、ミス・マープルは友人夫妻の潔白を証明するため推理する──。
ミス・マープル長編第2作目
全349ページ
ミス・マープルへの信頼
ミス・マープルは『書斎の死体』がシリーズ長編2作品目であるが、『書斎の死体』出版までにいくつかの短編小説も発表されている。
そのため『書斎の死体』のお話のなかではミス・マープルはいくつかの事件を解決した実績がある高い推理力を持つ女性という認識だ。
今回の死体が発見現場である書斎の持ち主バントリー家の夫人は、死体発見後すぐさまミス・マープルに探偵役を頼んでいることから彼女への信頼が見てとれる。
警察はその推理力を高く評価する者、ちょっと鋭いのは認めるが煙たく思う者などミス・マープルへの好き嫌いは別れるが概ねその鋭さは認めているようだ。
長編第一作目『牧師館の殺人』と違い、わざわざ探偵役を頼まれ捜査に積極的に参加するようになった『書斎の死体』は探偵ミス・マープルとしての始まりの一冊なのかもしれない。
州をまたいで捜査
探偵ミス・マープルは安楽椅子探偵というイメージが強いが意外と捜査で出掛けていた。
『書斎の死体』ではミス・マープルが暮らすセント・メアリ・ミード村のあるラドフォードシャー州から、隣のグレンシャー州にあるデーンマスのホテルまで捜査しに行っていた。
捜査と言っても捜査自体はラドフォード州警察とグレンシャー州警察とで行う。その捜査情報を聞いてミス・マープルは頭の中でも推理していくのだ。
容疑者や重要参考人と話をする場面もあるが、それは警察やまわりがセッティングしたものであり、ミス・マープルがいかにもな探偵らしいしつこい聞き込みをしたりはしない。推理構築などはTHE安楽椅子探偵といった感じだ。
ありふれた設定
書斎で見ず知らずの人間の死体が発見される。
まぁ、ミステリーではよくありそうな設定だ。そう思いながらふんふん読んでいくと最後の謎解きで驚かされ、これ以上ないくらいに納得させられる。
普段ミステリーを読んでいる時は自分なりに推理するのだが、事件の推理より複雑な人間関係が気になっていた。
そう読まされていたのだと思う。
ミス・マープル視点ではなく私もその他登場人物と同じ立ち位置でストーリーを見させられていた。
だから最後の謎解きでなるほどとその推理に納得させられてしまったのだ。
とにかく上手い。
登場人物の設定や人間模様と心情や人間性にリアリティーがある。文章の読みやすさもありいつの間にか小説の世界に入り込んでどんどんページを捲っていた。
まとめ
ミス・マープル長編第2作品目はミス・マープルが「探偵」として頼られ活躍する。
ありふれた設定だけれどもこれほど面白いのはさすがミステリーの女王だと思わされる。いつの間にか小説の世界に入り込んでどんどん読めてしまう。
以上、アガサ・クリスティー『書斎の死体』たまこ の感想でした🐯