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アガサ・クリスティ『ポケットにライ麦を』感想-ミス・マープル憤怒する

 

ミス・マープルシリーズ長編第6作品目!

 

2020年はアガサ・クリスティー生誕130周年、デビュー100周年!
アニバーサリーイヤー企画として『ポケットにライ麦を』の新訳版が刊行されました。

 

 


ポケットにライ麦を (クリスティー文庫)

 


『ポケットにライ麦を』


投資信託会社社長の毒殺事件を皮切りにフォテスキュー家で起こった三つの殺人事件。その中に、ミス・マープルが仕込んだ若いメイドが、洗濯バサミで鼻を挟まれた絞殺死体として発見された事件があった。義憤に駆られたマープルは、犯人に鉄槌を下すべく屋敷に乗りこんだ。
マザー・グースに材を取った中期の傑作。

裏表紙より引用

 

ミス・マープルシリーズ長編第6作目

アガサ・クリスティー
訳 宇野利泰

解説 大津波悦子

早川書房

2003年発行
(1953年に発表された作品)

全393ページ

 

見立て殺人


『ポケットにライ麦を』はマザー・グースの童謡の歌詞どおりに殺人が起きる、いわゆる「見立て殺人」のミステリーだった。
ミス・マープルシリーズでは初めての見立て殺人。
歌詞になぞらえた殺人事件はいかにもミステリー小説らしく、ドラマチックでわくわくするテーマである。


ただ、『ポケットにライ麦を』発表から68年が経ち、発表当時には目新しかったかもしれないミステリーのトリックも今では定番となり一般読者も鋭くなりすぎた。

ミステリーに慣れている人には“いかにもミステリー小説らしい”見立て殺人のトリックや犯人の目星が簡単についてしまうだろう。

殺人のトリックや犯人については自力で推理できても、動機まではわからなかった。アガサ・クリスティーの細やかな心理描写と巧みな人間関係の伏線のはり方に脱帽する。


ニール警部とミス・マープル


ミス・マープルシリーズでありながらマープルが登場したのは殺人後、文庫本のページを半分ちかく捲ってからだった。
基本的に物語はニール警部の目線で進む。捜査活動もニール警部が主にしていて、ミス・マープルは殺人事件の舞台となった水松荘の住人との世間話から情報を集める。

このニール警部は警察官特有の傲慢さもなく、頭がよく柔軟な人物だった。
彼はミス・マープルと初対面のときからマープルのことを「頭の冴える年寄り」として一目置いており、マープルが過去に幾度も難事件の手助けしたことを知ってからは積極的に捜査情報を提供して意見を求める。

いち読者としてはニール警部はできる警察官だと思うのだけれども、ミス・マープルはニール警部について「平凡な男と思っていた」と世間話のなかで言っていて(世間話を円滑に進めるためにあえてそう言っただけとも考えられるが)評価は厳しめだ。

そんな辛口評価をしておいて難航しそうな証拠集めに尻込みするニール警部に「あなたはじつにしっかりした警察官ですから」と励ますマープルの姿はお婆ちゃん的な強かさがあった。

 

ミス・マープルの憤怒


投資信託会社社長の毒殺事件を皮切りにフォテスキュー家で起こった三つの殺人事件。
被害者の一人がフォテスキュー家の暮らす“水松荘”で働く小間使いグラディスという娘だった。
ミス・マープルの暮らす地域では孤児院の孤児らに仕事を教える活動をしており、孤児だったグラディスはマープルから直々にメイド業の仕事を仕込まれていた。

そんなグラディスが洗濯バサミで鼻を挟まれた絞殺死体となり発見されたという新聞記事を読み、ミス・マープルはすぐさま水松荘への乗り込む。
死してなお洗濯バサミに鼻を挟まれる侮辱を受けたグラディスを憐れに思っていた。

グラディスのことを頭の足りない娘と辛辣に語りながらも、彼女を哀れみ憤怒するマープルに感情移入して涙がほろりと落ちてしまう。
マープルがここまで怒ったり泣いたりするのは珍しく、マープルの優しい人柄がよくわかるお話。

 

気になるその後

 

長男夫妻は結局どうなったのか、長女エレイヌの結婚について、意味深に描かれていた美人秘書がやめた理由とか。


美人秘書については次男が意味深に言っただけとも考えられる。
目の前で社長がもがき苦しんで誤解されたまま死なれたらトラウマだから辞めたのはわからなくもないしね。


ミス・マープルシリーズは真相解明後はいつも雑な感じがする。今回は特にそう思った。


まとめ


見立て殺人がテーマの王道的ミステリー。
ミス・マープルの怒りと哀しみに共感して涙が零れてしまう。
ミス・マープルの優しい人柄がわかるシリーズのなかでもぜひ読んでみてほしい作品。

 

以上、アガサ・クリスティー『ポケットにライ麦を』 たまこの感想でした🐯

 

 

2020年はアガサ・クリスティー生誕130周年、デビュー100周年!
アニバーサリーイヤー企画として『ポケットにライ麦を』の新訳版が刊行されました。