第164回芥川賞受賞!
2021年本屋大賞ノミネート作品!
近年は“推し”を持つ人も増えてきたため、主人公に共感できる部分がある人も多いと思う。
あらすじ
頑張っているけれど、周りから求められる“普通”が出来ない女子高生のあかり。
生きづらさを感じる日常で、心の支えはアイドルの上野真幸を推すことだった。
ある日、推しがファンを殴ったとネットで炎上してしまい──。
宇佐美りん
発売日 2020/9/10
全125ページ
普通が出来ない女子高生
主人公のあかりは「普通が出来ない」女子高生。
具体的な病名は明言されていないが、何かの病名がつく病気だと診断されているらしい。おそらく発達障害なのだとおもわれる。
自分なりに一生懸命がんばっているのに、周りの望む「ふつう」が出来ない。
もどかしさと劣等感を抱え、自分の生活そのものを諦めてしまっている。
病気だと診断されているのにも関わらず、家族はあまり理解してくれていない。
家族がある程度の道筋を示してあげていれば、あかりはもっと生活力があったのではないだろうか。
高校に入学できるのならある程度の勉強や学校生活は出来るはず。
あかりの推しについてのブログは同じアイドルグループ推しのファンの間でもそれなりに有名であった。
ブログの文才もあるようで、ブログ読者からは知的なイメージを持たれていたほどだ。
現実のあかりとブログをやっているあかりのイメージのギャップが大きいが、人には向き不向きがあるものだ。あかりはちょっと苦手なことが多かっただけ。
ブログのように得意な分野を伸ばせれば、家族の手助けがもう少しあれば……。
発達障害による生きづらさを知ることができた気がする。
そんな生きづらい日々だからこそ“推し”が支えだったのだ。
“推し”は生き甲斐
主人公あかりは“推し”を推すことが生き甲斐な女子高生だ。
その好きなアイドルがファンの女性を殴ったとネットで炎上してしまう。
あかりは推しのラジオ、テレビでのあらゆる発言を聞き取り20冊を越えるファイルにまとめていた。
すべては推している人を解釈するための行動だ。
それをブログ公開していたあかりは、同じアイドルグループファンの間ではそれなりに有名であった。
推し活、推し方はさまざまだ。
私自身はライトな推し方しかしたことがないため、「推しは背骨」と言い切る主人公あかりはかなり熱心な推し方をしているようにみえる。
それでいて「推しを理解したいが距離感を保ちたいタイプ」なあかりは熱心で善良なファンだと思う。
ライト推しタイプな私でも共感できる部分もあり、読んでいて胸が痛む思いもした。
熱心な推し活をしている人の情熱と不安定さがリアルで想像しやすい。
推しが人生だと言えるほど熱中できることに羨ましさもあるけれど、自分自身はここまで入れ込むのに向いていないなと改めて思った。
推しがいたことがあるか。推し活をしたことがあるか。この経験の有無と熱量の違いで『推し、燃ゆ』の読後感は違ってきそうだ。
まとめ
推しを推すことに生きることのすべてを注ぐ女子高生のエネルギーに圧倒され、喪失感に苛まれる。
“推し”や“推し活”に疎くても、熱狂的なファン心理をなんとなく知ることができる。
まるで、自分が経験のないスポーツが題材の「青春のすべてをスポーツに捧げた物語」を読んだかのような読後感だった。
以上、宇佐美りん『推し、燃ゆ』たまこの感想でした🐯