綾辻行人『緋色の囁き』<新装改訂版>
囁きシリーズ1作目!
閉鎖的な環境で過ごす女子高生たちの価値観は偏り狂っていく。リアリティーあるホラー寄りミステリー
『緋色の囁き』<新装改訂版>
名門・聖真女学園高校の「開かずの間」で、少女が死んだ。「魔女」という謎の言葉を残して──。
美しくも残酷な連続殺人劇の、それが幕開けとなる。
転入生・冴子の心にひそむ“赤い記憶”の秘密。夜ごとに少女たちを襲う殺人者の正体は?
鮮血と狂気に彩られた「囁き」シリーズ第一弾、待望の新装改訂版。
裏表紙より引用
囁きシリーズ一作目
綾辻行人 あやつじゆきと
旧版解説 津原泰水
新装改訂版解説 朝宮運河
2020年12月15日発行
(初刊は1988年10日)
全537ページ
舞台は全寮制の女子高生
時代は昭和。主人公の和泉冴子はお堅い名門として有名な聖真女学園高校に転校してきた。
聖真女学園は規則が厳しく、寮でも学校でもちょっとしたことでペナルティを与えられてしまう。体罰なんて当たり前だ。
公立から転校してきた冴子の目にはこの学校は異常に思えた。何より異様に感じたのは、一様に振る舞うクラスメイトたちだった。女子高生のキャピキャピ感はなくまるで人形のような少女たち。
寮も学校も陰鬱とした古い建物で、抑圧された学校生活がさらに暗い雰囲気を纏う。
思春期女子特有の不安定な心情がうまく描かれている。
なかでもクラスの絶対的な存在である委員長・綾の存在が怖くもあり、あるあるだなとも感じた。
中学や高校くらいだとグループでも中心的な存在っているもので、その子の意見が通る。別に支配的な子というわけはないのに、なぜかみんながその子を中心に考えてしまう。
そんな決定権がある存在いたなぁ。
なんで思春期は中心的な存在をつくってしまうのだろうか。
この女子特有の微妙な人間関係を書いたのが男性作家ということに驚きである。すごい。
ホラー寄りなミステリー
古い建物と体罰ありの厳しい学校生活、偏った価値観のクラスメイトたち。これだけでもどんより暗い雰囲気があるが、冴子の存在もホラー要素を含んでいる。
子供のころの記憶がない冴子は生理期間中に幻聴(囁き)に苛まれる。
謎の囁きと度々記憶にない行動をとってしまう自分を恐れている。
そんな中で発生した連続殺人事件。
殺人事件が起きただけでも多感な時期の女の子たちには恐怖だろう。(多感な時期でなくても怖いけど)
冴子は「殺人を犯しているのは自分なのかもしれない」と疑う。
この不安感と恐怖がホラーとして強く印象に残る作品。もちろんミステリーとしても面白い。
魔女
「私は魔女だから」
クラスメイトが残した「魔女」という言葉。
この魔女という言葉の意味がわかったとき、鳥肌がたつほど震えおののいた。
閉鎖的な環境に押し込められた女子高での悲惨な殺人事件は、起こるべくして起こったのかもしれない。
連続殺人事件も恐ろしい出来事だが、魔女の存在が恐ろしい。現実にもありえそうな話なのがいたたまれない。
この微妙なお年頃女子の素直さとあやうさが怖い。
戦慄とともに、昏いノスタルジーを喚起する
まとめ
同作者の『暗黒館の殺人』のようなホラー感たっぷりなミステリー作品。
思春期女子の不安定なあやうさの描写が秀逸で、学生時代の負の記憶が蘇る。女子高が舞台とあって女性読書は世界観に入り込みやすそう!
以上、綾辻行人『緋色の囁き』<新装改訂版> たまこの感想でした🐯