『スイッチ 悪意の実験』でメフィスト賞を受賞した潮谷験の怒涛の第二作!
『時空犯』
あらすじ
私立探偵、姫崎智弘のもとに、成功報酬1000万円という破格の依頼が舞い込んだ。依頼主は情報工学の権威、北神伊織博士。なんと依頼日である今日、2018年6月1日は、すでに1000回近くも巻き戻されているという。原因を突き止めるため、姫崎を含めた招集メンバーは巻き戻しを認識することができるという薬剤を口にする。再び6月1日が訪れた直後、博士が他殺死体で発見された……。
帯より引用
潮谷験 しおたにけん
2021年8月17日発行
全322ページ
SF初心者にもわかりやすいループもの
2018年6月1日が900回以上も巻き戻しされている。情報工学の権威、北神伊織博士はこの巻き戻しの原因を突き止めるため8人の協力者にも巻き戻しを認識できる薬を与える──。
題名やあらすじからループものミステリーなのはわかっていたけど、ループする原因とか想像以上にしっかりめなSFだった。
もっとこう、ふわっとしたループものミステリーだと思ってたの。
SFはあまり手を付けたことのないジャンルだからこんな難しそうな壮大なループ設定に、私の頭脳では理解しきれないんじゃないかとちょっと怯んだ。そんな不安を抱えながらも、ふつうに読み進めていけばちゃんと理解できた!
SF初心者にも分かりやすいのは登場人物のひとり、科学苦手系おばちゃんのおかげである。感謝。
彼女への説明という形で書かれているのが分かりやすい理由だろう。それでいて説明の場面はクドくなりすぎず、サクサク進んでいくのも読みやすくて良かった。
SFものに苦手意識があった私でもじゅうぶん楽しめる大満足な一冊だった。
これからはSF小説も読んでみたいなと思えるほどにいま調子にのっている。
事件は無かった!
2018年6月1日が900回以上も巻き戻しされているループものミステリー。
事件が起きてもまた同じ日の早朝に巻き戻る、事件が起こる前に戻る。
つまり殺人事件が起きても事件そのものが無かったことになってしまう。
事件の事実も証拠も消えてしまっていては罪に問うことはできない。かといって殺人を犯す人間がいるのだから放置するわけにもいかない。
時間遡行殺人犯を裁くには目には目を歯には歯を理論しかないと考えた私は残虐思考すぎると反省した。
ミステリーとは思えないほど平和的解決。ループSFもの設定をうまく生かした円満ハッピーエンド風な締めくくりは爽やかな読後感だった。
ループする世界観で起きた殺人事件はごちゃごちゃしそうなものだけど、ミステリーの謎解きもロジカルな推理で順序立てられておりとてもスッキリまとまっていて読みやすかった。
ループを共にする戦友
ループする世界を認識できるのはこの世で9人だけ。
年齢も性格も立場も違う9人だけど、誰にも言えない(理解してもらえない)秘密を共有し極限状態を共にした運命共同体な戦友って感じが好き。
ふつうのミステリーではこうはならない。ループものミステリーだからこそ、事件はあったが無かったことになる世界観だからこその縁であり絆。
続きそうにないのは分かっているけども、主人公であり探偵姫崎のプライベート問題も気になるところなので、探偵姫崎シリーズになってほしいなと思う。そこでちらっと今回の他の登場人物が出てきたら嬉しい。
まとめ
SF初心者にもおすすめなループものミステリー!
難しそうなループ世界観も丁寧な説明のおかげで理解しやすく読みやすい。殺人事件でありながら嫌な気持ちにならずスッキリ爽やかな読後感だった。
以上、潮谷験『時空犯』 たまこの感想でした😸