宗教画に残された血文字、握られた聖書の切れ端
戦場帰りの青年士官とマリー=アントワネットの総女官長が挑む
神すらあざむく殺人劇の謎帯より引用
第10回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作品
『ヴェルサイユ宮の聖殺人』
1782年5月──ブルボン朝フランス王国が黄昏を迎えつつある頃、国王ルイ16世のいとこにして王妃マリー=アントワネットの元総女官長マリー=アメリーは、ヴェルサイユ宮殿の施錠された自室で刺殺体に遭遇する。
殺されていたのは、パリ・オペラ座の演出家を務めるブリュネル。
遺体は聖書をつかみ、カラヴァッジョ「聖マタイと天使」に血文字を残していた。そして、傍らに意識を失くして横たわっていたのは、戦場帰りの陸軍大尉ボーフランシュだった──。
マリー=アメリーは集った官憲たちに向けて、高らかに告げる。
「この方の身柄を預けて下さいませんこと? 私のアパルトマンで起きた事件です。こちらで捜査しますわ。無論、国王陛下の許可はお取りしますからご安心下さい」
「俺は助けて欲しいと一言も言ってない! 」かくして、奇妙な縁で結ばれた、才女気取りのやんごとなき貴婦人と第一容疑者のボーフランシュ大尉は、謎多き殺人事件に挑む。カバーそでより引用
第10回アガサ・クリスティー賞優秀賞受賞作品
宮園ありあ
早川書房
2021年1月25日発行
全366ページ
装丁が綺麗で一目惚れ!
装丁が美しい。華やかなヴェルサイユのわかりやすいイメージを落ち着いたダークな色彩で描くことでミステリーの雰囲気を醸し出している。
表紙、あらすじ、『ヴェルサイユ宮の聖殺人』というタイトルはポップな印象を受け、手に取りやすく、購入欲を刺激される。
しかし、ポップな第一印象とは裏腹に、フランスの上流階級の文化や社会情勢を細やかに描写しており、歴史苦手人間な私には堅苦しさを感じた。
殺人事件ミステリーが主軸であるため歴史小説よりは読みやすいけれど、読むリズムを掴むのに苦労した。もっと気楽に読めると思っていただけにより苦労したような気分になる。
登場人物の多さと複雑な関係性にも身構えてしまったが、これについては読ませ方がうまく把握しやすくて助かった。
間が空くと忘れてしまいそうなので短期間に読みきることをおすすめする。
フランスを楽しめ!
才女気取りのやんごとなき貴婦人と第一容疑者ボーフランシュ大尉が殺人事件の謎解きをする。
ただの徴税請負人殺人事件と思われた事件は大きな陰謀が隠されいるようで──。
パンティエーヴル公妃マリー=アメリー。フランス国王ルイ16世陛下の従妹で、ナポリ=シチリア王国の妹、スペイン国王の娘。
す、すごすぎる。高貴な血筋ながら嫌なお貴族様ではなく好感の持てる彼女は、粗野なボーフランシュ大尉と徴税請負人殺しの事件を調査する。
王族のマリー=アメリーの警護が手薄すぎるのはフィクションだからなのか、実際のフランス貴族社会もこんなものだったのかが気になるところだ。
文章が読みやすく、難しそうで敬遠していた歴史についてもするする頭に入ってくる。
THEフランスといった芸術と“愛”の美しさにうっとりする。
ミステリーを通すことでフランスの時代、身分、宗教、芸術の光と闇を汲み取りやすくなり、フランスの世界観にどっぷり浸かれる。読後は世界史熱が一時的にあがること間違いなし。
知識がなくヴェルサイユ宮殿のアパルトマンのイメージがわかなかった。コロナの心配がなくなったらやりたいことリストに「ヴェルサイユ宮殿を見に行きたい」が増えた。
続編はどうなる?
公妃マリー=アメリーとボーフランシュ大尉の今後は続編に期待したい。(続編がでるかはわからないけども)
ただ、この二人の場合は身分の差よりも時代がネックである。
結婚してからが恋愛開始! 男も女も愛人を侍らすのが当たり前なフランス貴族の価値観なので身分の差なんて障害にすらならない。
問題なのはこの世界がフランス革命目前なこと。
『ヴェルサイユ宮の聖殺人』の殺人事件発生は1782年。フランス革命は1789年に勃発するため時代が悪い。
陸軍大尉ジャン=ジャック・ルイ・ド・ボーフランシュは明らかに創作上の人物であるが、やんごとなき貴婦人の公妃マリー=アメリーは実在モデルらしき人物がいる。
私がネットで軽く調べた結果、この人がモデルかなとおぼしき人物が二人いた。今後の展開を想像して楽しんでいる。
フランス革命の混沌とした時代をどう乗り切るのかもぜひ読んでみたい。
まとめ
細やかなフランス歴史をベースに、探偵役の公妃と大尉のおもしろバディもの。
事件捜査を通してフランス革命前の渦巻く光と闇を垣間見ることができる。
文章が読みやすいため登場人物の多さと小難しいフランス歴史は意外にも把握しやすかった。
ぱっと見たポップなイメージとは違い重厚な作品。
以上、宮園ありあ『ヴェルサイユ宮の聖殺人』 たまこの感想でした🐯