たまこのとられこblog

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料理がテーマのアンソロジー『注文の多い料理小説集』-20代後半以上の大人にオススメ

物語の扉をそっと開ければ、今まで味わった事のない世界が広がります。小説の名手たちが「料理」をテーマに紡いだとびきり美味しいアンソロジー

裏表紙より引用

作家7人による「料理」をテーマにしたアンソロジー

日々感じる息苦しさなど、ちょっと重めな悩みを抱える彼ら彼女らは人生に切り離せない「食」で解放されたりさらに悩んだり……。
料理が美味しそうなのは言わずもがな。
207ページ読みやすいページ数ながら7編の物語はどれも面白く満足感ある一冊


注文の多い料理小説集 (文春文庫)

 


『エルゴと不倫鮨』柚木麻子

妻子ある東條は26歳も年下の部下の仁科を特別気に入っていた。少しずつ距離を縮め、今日こそはと張り込んでイタリアン創作鮨「SHOUYA mariage」にデートに来ていた。
しかしお洒落な店にそぐわない客がやってきて──。


アンソロジーの1編目から面白い!
イタリアン創作鮨の描写が丁寧で、私の乏しい食経験でも美味しそうなお寿司が想像できる。
タイトルの通り不倫のお話だけれども、笑える結末に爽快さを感じた。
女性が好きそうなストーリーだと思う。

 


『夏も近づく』伊吹有喜

拓実は祖母と母を介護の末に看取った。いまは田舎の実家で独り暮らしをしている。
ある日、兄の克也が前妻との息子を連れてきて預かってほしいと頼みに来た。拓実は渋々と甥の葉月を預かることになり、お互い距離を測りながらの生活が始まる──。


優しくない世界で自分の居場所を見つける優しい物語。
家族というくくりではなく「一緒に生活する者」としての距離感が良い。
安定した平穏な居場所があれば不便でも楽しい日々が送れるはず。
甥の葉月がこの後どんな人生を歩んだのか、続きが読みたくなるお話だ。

 

 

『好好軒の犬』井上荒野

小さなラーメン屋好好軒(はおはおけん) は先週火事を出して全焼してしまった。
その店の駐車場の端には大きな檻があり、檻の中には二匹のダルメシアンが飼われていたはずが火災後に行方不明になってしまう。

娘の通う幼稚園ではその犬たちについての怪談話が噂されていた。
小説家の夫は普段と違う行動、犬の行方に怯える娘、妻の思いは──?

 

火事で行方知れずの犬の安否と不安。
その不安と主婦の日常の不安。
現実的な悩みと夢物語のようなふわふわした感覚のバランスが絶妙である。
主人公の選択に少し疑問もあるけれど、夫婦の在り方はそれぞれなのでそれもありなのかなと拒否感はない。
読了後もしばらくふわふわした余韻が残っていたお話。

 

『色にいでにけり』坂井希久子

錦絵の摺師の娘お彩は色彩のセンスがあった。
京都から出て来ていた右近はいまひとつ江戸の粋に馴染めず、お彩の色へのこだわりに目をつけ声をかける。
右近は友人の菓子屋に協力してほしいとお彩に仕事の依頼をする──。

 

唯一の時代小説。
お彩が関わる和菓子も美味しそう。
和菓子、着物、錦絵など色や柄を楽しむのが江戸っ子の粋だった時代なため、文章たげでもカラフルさが想像できて楽しい。
右京がどんな人間なのか明確な描写がなく謎に包まれたまま終わってしまい気になる。続編希望作品。

 

 


『味のわからない男』中村航


元売れない地味アイドル岩上は泣き食レポでブレイクを果たす。美味しさなんて関係ない、岩上が泣けば視聴率が獲れる。
それもこれも、売れない時代からの熱心なファンであり、芸能事務所勤務の婚約者によるプロデュースのおかげだった。
そんな順風満帆に仕事をこなす岩上は富山でロケをすることになり──。

 

 


元売れないアイドル時代を経験してやっとブレイクしてきた男の自業自得な転落物語。
自分の実力ではなく婚約者によるマネージメントによってブレイクしたと理解していた男。理解しているからこそ謙虚に慎重にきたはずなのに、何故、人は愚かになってしまうのか。
自業自得だけれども、些細な調子のりで全てを失うのは可哀想にも思える。

 

 

福神漬』深緑野分

両親から借金が膨らみすぎてもう前のようには暮らせないと宣言されて以来、大学を休学してバイト三昧の日々。
食生活も貧しくなりカロリー摂取のため食べている感覚だ。
そんな生活のなか、図書館から借りた日本の近代の食生活について書かれた本が気になり読んでみると──。

 


主人公のバイト三昧な毎日と貧しい食生活は読んでいて悲しくなる。
描写はつらそうな生活だけれども本人が淡々としているため悲愴感は少ない。
オカルト系なお話なのも生活苦を軽減させていたように思う。
料理のアンソロジーなのに不味そうな食事を描いていたのが印象的だった。

 

 

『どっしりふわふわ』柴田よしき

パン職人を夢見て上京した朋子は50歳を過ぎて実家の百合が原高原に戻ってきた。
朋子は東京で一度は店を持つも共同経営者たちのトラブルで閉店になり、その後は専門学校で講師をしていた。
かつて夢見たパン職人としての人生ではないけれど、ベテラン講師としての地位を築いていった。
そんな朋子が仕事を辞め実家に帰った理由には元教え子ヒロの存在があった──。

 


百合が原高原というリゾート地のパン屋、それだけで美味しそうだ。
美味しそうなパンと素敵な恋愛物語。
恋愛に爽やかさを感じた。とにかく読んでみてほしい。
アンソロジーのトリに相応しいお話。

 


まとめ

「料理」がテーマのアンソロジー、どの作品も面白かった。
『エルゴと不倫鮨』『夏も近づく』『色にいでにけり』が個人的にお気に入りの好きな作品。
ほとんどの作品で料理とは別の+α部分が不倫だったりとちょっとダークめなので、社会人以上の大人なみなさまが共感しやすいと思う。

 

以上、『注文の多い料理小説集』たまこ の感想でした🐯